★現在の中1数学における教科書の【不等式】の取り扱いについて

 

★現在の中1数学における教科書の【不等式】の取り扱いについて

(1)

現在、中1における不等式は次のような文脈で取り上げられているようである。

厚木市で今採択されている『数学1』啓林館の教科書についてみてみる。

本書p.77において「関係を表す式」という項目が二つになっている。

一つは、等しい関係を表す式、もう一つは、大小関係を表す式である。

この中1で取り上げられているのは、後者である。

等式にしても不等式にしてもともに関係を表す式という範囲において取り扱われているのである。

p.77から引用する。「3人で、ケーキと花束のプレゼントを買うことにしました。1人a円ずつ出し合うと、1個b円のケーキを5個と3000円の花束をちょうど買うことができました。集めた金額の合計を式に表しましょう。また、代金の合計を式に表しましょう。」と記述されており、等式とは何かを定義している。

その後で、p.78で次のように述べている。「前ページで、集めた金額でケーキ5個と花束を買っても、まだお金が残ったとすると、3aは5b+3000より大きいことになります。この関係を次のように表します。3a>5b+3000」と。

そして、不等式について次のように定義を与えている。

「このように不等号を使って、2つの数量の大小関係を表した式を不等式といいます。不等式で不等号の左側の式を左辺、右側の式を右辺、その両方をあわせて、両辺といいます。」

そして、以下で(1)数量関係を不等式で表す練習、(2)≧、≦(以上、以下等)を使って不等式に表す練習、(3)与えられた不等式はいったいどんな意味を表しているかを説明させる練習が問題として与えられている。

ここで、注意すべきは、「不等式を解く」ということはまだやっていないことである。

(2)

こういった文脈で教科書では「関係を表す式」の一つとして、等式とともに不等式が取り扱われているのである。

(3)

小学校ではある程度やっているにはせよ、中1にとって文字の式に入ったばかりの段階で、具体的な数から文字の有り難みが実感としてわかっていない生徒にとってみては、等式に比べて不等式の方が抽象度が増し、やや理解に苦しむ場合が出てくるのは致し方がないといえる。

指導者はこの点に気をつけて、よほど丁寧に段階を踏んで説明すべきであると考える。

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現在においては上記のような観点から中1で不等式を取り上げているわけであるが、相当前(何十年かは教師用指導書に出版年度が記載されていないので正確にはわからないが…)は、中2で教科書で取り扱われていた。

参考までに、『改訂中学数学・教師用指導書』[教育出版][出版年は記載されていない。]のごくおおまかな概略を見てみる。

p.51に学習指導案例が載っている。

目標としては、(1)〜(6)まで挙げられている。

「(1)不等式とその解の意味を理解させる。

(2)不等式の性質を用いて不等式を解くことを理解させる。

(3)不等式を用いて問題を解くことを理解させる。

(4)連立不等式とその解の意味を理解させる。

(5)連立不等式の解き方を理解させる。

(6)連立不等式を用いて問題を解くことを理解させる。」と。

さらに、「教材について」の箇所で興味深いことが述べられている。

「…不等式は大小関係についての条件を表したもので、この条件を満たす文字の値がすべて解であり、未知数を求める方程式の1つだけの解(※筆者の意見の追加:これは中1で取り扱った一元一次方程式のみを指すものと思われる。)とは異なる。この点をふまえつつ不等式の性質を理解させ、それをもとに筋道を立てて解き方を理解させるとともに、それを形式化して、代数的方法のよさをわからせるようにしたい。不等式の利用についても、方程式の利用と対比しながら、特に不等式を学習したことのよさが理解できるようにしたい。連立不等式については、連立することの意味をよく理解させ、2つの不等式の解の集合の共通部分を見つけるときには、数直線に図示するとわかりやすいことを理解させるとともに解の表し方についても十分慣れさせたい。」

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以上、現在の中1における不等式と何年か前の中2の不等式の教科書における取り扱いを見た。

それぞれ異なった文脈で取り扱っているのは明白になったわけであるが、後で関数についての学習事項の「変域」のところに入って、xのとる値の範囲やそれに伴って変わるyのとる範囲を考えたり、2次方程式の利用の解の吟味をする際や二次関数の変域にとっても、どうしてもこの不等式の解の範囲という考え方が必要になるように思える。

そのためには、昔の教科書ほど深入りする必要はないとは思われるが、とりうる値の範囲という変域の問題を取り扱う場合に先立って、「不等式」を単なる大小関係に終わらせず、もう少し変数の範囲という観点から多少深入りすることも必要な気がするが如何なものか?

「変域」で躓く生徒の話を中学校の教員から何回も聞かされ続けているせいか、「不等式」のある程度の理解をその助けに使えないか?と思ったりするからである。