◆【中学理科の教科書内容の重きの置き方の変遷】

(注)フェイスブックに投稿(2019.1.20.)したものより、多少の変更有

【中学理科の教科書内容の重きの置き方の変遷】

「食物連鎖」と「食物網」をめぐって

(1) 🧢

自然科学の発展は、日進月歩し、以前のように10年などといったように長期的スパンで段階的に大きく変わるとは限らず、常に日々発展しているとも考えられる。
したがって、学会の定説が大きく変わったり、学問の考え方の重きの置き方の変遷が教科書に反映されるまでの期間は、以前より短くなってきたともいえよう。

(2) 👕

ここでは、「生物どうしのつながり」とか「生物どうしの間の関係」といった生態系をテーマにした学習内容における「食物連鎖」と「食物網」に関する教科書の記述について限定し、以前と現在(2年前)を比較してみることにする。

断っておかねばならないが、決して以前の記述が間違っているとかいうつもりは毛頭ない。
ただ、純粋に、記述の重きの置き方等についてありのまま客観的にふれるだけである。

そのことによってその背後にある「群集生態学」の現在の考え方が、垣間見れるのではないかというささやかな興味・期待からであるということは言い添えておきたい。

(3) 🧤

ここにあるのは、『改定 中学校理科 2分野下 学習指導資料』(学校図書株式会社)と『新編 新しい科学』(東京書籍) 平成28年発行の2冊である。
前者は、教師用の指導書と考えてよい。教科書の記述は縮小されてそのままそれには記載されている。したがって、教科書と考えて何らさしつかえないであろう。
ただ、残念なことに、発行年度は、どこにも載っていない。
しかし、月別単元配当表として平成2年度、平成3年度、平成4年度とあるので、少なくとも、平成2年度以前のものであろうということは、類推できよう。
つまり、26年(28年)以上も経った教科書の比較(出版社は違うが)ということになる。

(4) 👔

前者の教科書のp.44~47『雑木林の中で、いま…』の「ねらい」として指導書には、次のように書いてある。「身近な食物連鎖の事例をもとに、自然界の生物どうしの間には、ひろく食べる食べられるといった食物をめぐる関係があることを理解させる。」
さらに、留意点として「食物連鎖はマクロ概念なので、教師の側から細かく個々の生物に深入りする必要がない。………中略。……郷土の自然の事例を豊富にとりあげ、食物連鎖のしくみを印象的に導入するようにする。」と記載されている。

(5) 🎩

では、教科書の記述はどうなっているか。P.47から引用しておこう。「すでに、学んだように、動物は、生きるために他の生物を食べる。例えば、雑木林の中の例を見ても、モズはカエルを食べ、カエルはトンボを食べ、トンボはチョウを食べ、チョウは植物を食べて生活している。このような食物をめぐる関係は、その他の例をみても、ヘビはカエルを食べ、カエルはバッタを食べ、バッタは植物を食べるというように、くさりのようにつながっていることから、食物連鎖とよばれている。この関係は、雑木林の中だけに限らず、図1のように、陸上・土中・水中にわたって、ひろく自然界の生物の間に見られる。」
教師への解説としては、海洋・森林・湖沼について次のように述べている。「しかし、実際の自然界では、このような単純な関係はほとんどなく、これらの連鎖に枝が出たり、これらがつながったりして食物環や食物網の形になっていることが多い。また、これらに分解者などを加えるときわめて複雑になり、一定の地方の食物網を完全に表すことは不可能に近い。」
そして、実際の自然界での食物連鎖のたいへん複雑な例として福島県尾瀬の調査例を補充資料として載せてある。
このように指導書の教師に対する解説には、食物網についての記載があるが、教科書本文については、食物連鎖については載っているが、この26年以上前の教科書には「食物網」についての記載は見当たらないのである。

(6) 🦚

後者の現在(2年前)の教科書に目を転じると本文はどのように書かれているのか。
P.233では、まず、「生態系」の定義から始まっている。「ある地域に生息する全ての生物と、それらの生物をとりまく環境(水や空気、土など)を、ひとつのまとまりとしてとらえたものを生態系という。」
そして、次のような問いかけから始まる。「生態系では、生物どうしの間にどのような関係がみられるのだろうか。」と。
その以下には、【食物連鎖】と【食物網】について、本文にはっきりと書かれている。
特に、26年以上前の教科書の本文には、載っていない【食物網】についてカラー写真まで使って半ページの紙幅をあてている。つまり、陸上と土中の生物の食物網の例を矢印を使って説明しているのである。

(7) 👟

では、食物連鎖の記述を見てみよう。「例えば海中では、プランクトンをイワシが食べ、イワシをカツオが食べるという関係が見られる。このような、食べる、食べられるという鎖のようにつながった一連の関係を、食物連鎖という。食物連鎖は、光合成を行なう植物などから始まる。」と記載されている。
この説明においては、光合成をおこなう植物(生産者)から食物連鎖が始まるという叙述以外は、前者の教科書とほぼ同じだといえる。

「食物網」についてはどのように、説明しているだろうか。それによると「食物連鎖は、陸上、水中、土中など、全ての生態系で見られる。多くの動物は、複数の種類の生物を食べている。ある生物についてみると、何種類もの生物と食物連鎖の関係にあり、生態系の生物全体ではその関係が網の目のようにつながっている。これを食物網という。」と書いてある。
「食物網」は、「群集生態学」の考え方が大きく影響を与えているのではないか。

(8) 🍄

ただし、大陸と何らつながりもない海底火山が噴火してできた陸地や洞穴や北極地方などの生物相の貧弱な場所における食物連鎖は、比較的より単純なものになるようである。(北極地方の冬季 地衣類➡トナカイ➡オオカミ※前掲書p.96参照)

(9) 🌎

以上、時代の異なる二つの理科の教科書を比較してみたが、やはり、叙述の仕方、学習項目の取り上げ方の比重の置き方等の違いがあった点はなかなか興味深かった。おそらく、その裏には、背後にある学問の発展があるのであろう。🌈😃